『辺境警備』(88~)は
優しく美しい中世風ファンタジー作品です。
主人公が女好きのヒゲの曲者おじさん
サウル・カダフ(若い頃は美形)
というのも珍しいですが
この人が辺境西カールに左遷され
隊長として赴任してくるところから
話は始まります。
素朴な兵隊さんたちに、
銀髪に菫の瞳の美形神官さん、
ジェニアス・ローサイ。
やさぐれた黒呪術師(でも面倒見はいい)
カイルや
謎を秘めた剣の賢者「背高さん」など
魅力的なキャラクター揃い。
児童文学のような季節ごとの田舎の暮らしや
神官さんへの少女の切ない恋とか、
都から隊長さんを訪ねてきた
元恋人のその理由は?など
1話完結の平和な話も多数ありますが、
そこにも伏線が張られていたり。
中盤以降、神官さんが
辺境に赴任するきっかけになった
過去の悲しい事件、
出生の秘密と、そこに関わる
背高さんの正体など、
千年前の伝説も絡んだ
壮大な話になってきます。
その辺りはだいぶ話が重いのですが、
中和してくれるのが隊長さんの存在。
登場の際は女でしくじって左遷されたとか
怠け者の昼行灯として描かれますが、
時にツッコんだり茶化したりでシリアスを緩和し
時に大人として優しく励まし、
悪意を持ってたり、欲深い相手にも
堂々と駆け引きできる人脈の広さと
したたかさを持つ理想の上司でした。
今読み返してみても隊長さん
いい男だなぁ……。
兵隊さんたちもすごく重要な癒しキャラです。
あと作者が「これからもおいしそうな
食べ物描きに精進します」と
別作品『癒しの葉』で宣言してる通り
作中の食べ物は本当に美味しそうです。
秋のタルトバイキング、冬にフライパンに
敷き詰めた雪の上に、溶かした砂糖で飴作り。
ランプやちょっとした小物までデザインが
凝ってるんですよね。
燃える(というより輝く)銀青草の花に
胡桃の実に入った極上の果実酒、
水に沈めれば幻影を見せる「精霊の映し玉」など
絵も設定も作風も、繊細で実に美しい……!
良質なファンタジー世界に浸りたい人には
おススメです。