グレッグは死後も幻となってジェルミに
つきまとい、ことあるごとに彼を責め苛みます。
ジェルミを更に絶望に突き落としたのは
サンドラがグレッグとの関係を
知っていたという事実でした。
皮肉なことに、あれほど疑っていたイアンが
ジェルミの罪悪感が生み出した嘘に過ぎないと
結論を出した直後に、物証が出てきます。
それはイアンにとって尊敬していた父親像が
崩れることを意味し、
自分が何も知らずに過ごしていたと
認めることでもありました。
イアンが真相を知った時、ジェルミは
スラムで男娼となり、ドラッグに手を出して……。
救おうとして傷つくイアン、
傷つけたことで更に苦しむジェルミの姿は
断崖の上で揉みあっているようでハラハラしました。
そしてイアンの元にもグレッグの幻が……。
イアンとジェルミに見えるグレッグは
罪悪感だったり欲望だったりと意味合いは
違っても、自分を責める声の具現化です。
死んだはずのキャラと会話したり、
物理的にありえない表現ができるのは
漫画というコンテンツの強みです。
緻密で幻想的な精神世界と、そこに紡がれる言葉の
美しさは本当に素晴らしい。
グレッグとサンドラの死から一年後までが
この物語の大半を占めますが
たった一年が濃密すぎる……。
カウンセリングでジェルミが作ったオブジェが
最初は痛々しいデザインだったのが
ラストで完成形を見た時は泣けてきました。
創作物から心の変化が伝わるのもいいですね。
また、ジェルミ以外にも病んだ
キャラが多数登場し、互いに変化をもたらします。
イアンの彼女ナディアの妹・マージョリー、
マージョリーを溺愛する母親と
ナディアの不安定な関係、
バレンタインも再登場し、双子の兄エリックとの
物語が語られます。
そして少しずつ明かされていくイアンの母・
リリアとグレッグ、ナターシャの過去の話、
そしてグレッグと母親の関わり。
ひねた子供だったマットも落ち着き、
成長を見せます。
ヘビーな話が連続しますが、一度読みだしたら
目が離せなくなる傑作です。