『あすなろ坂』(77~)は幕末から戦後までの
有馬家の人々の4世代に渡る、波乱万丈の恋と
人生を描いた大河ロマンです。
有馬邸のあすなろの木を見上げ、
「明日なろう」という名前に何を思うかで
登場人物の性格の違いが描かれたり
この木から作られたお守りが
行方不明になった娘の証明になるなど
作中通して重要なモチーフです。
「あすなろ坂」という地名がある
わけではありません。
序盤は幕末~明治。
最初の主人公・芙美(ふみ)が
故郷の会津を出て、江戸詰めの会津藩士・
有馬武史(ありま たけふみ)のもとに
嫁ぐと決まったところから始まります。
芙美は乳母の息子で幼なじみの
帯刀新吾と身分違いの恋をしており、
彼の子を宿してしまいます。
新吾は会津に戻りましたが、戦争に巻き込まれて
行方不明に……。
武史は優しい人で、全てを受け入れて
生まれた子を新之助と名付けて可愛がります。
しかし妻の愛が得られない寂しさから
ふとしたきっかけで女中に手をつけてしまい、
娘史織が生まれるのでした。
後に芙美と新吾は再会を果たすも、二人は
それぞれの家庭を選びます。
しかし武史は不治の病に……。
明治~大正期は新之助と史織の兄妹、
大正~昭和にかけては新之助の娘
詩絵(ふみえ)と忍、
更に忍の娘みどりと、共に育ったさくらの
物語が描かれます。
不治の病、財産を騙し取られる、三角関係、
レイプ、危険思想で官憲に付け狙われたり
刃傷沙汰があったり
忍の夫がソ連に亡命しようとして夫婦とも殺され、
残されたみどりは女郎屋に売られそうになったり
みどりから取り上げたお守りのせいで
さくらが有馬家の令嬢扱いされたり……。
関東大震災や戦争も含め、昼ドラのような
怒涛の展開の連続です。
しかしこの溢れんばかりの勢いと、
「愛とは何か?」「人生とは何か?」と
ひたむきに問いかけてくる姿勢こそが
里中満智子さんの作風でもあります。
それぞれのキャラが「生き抜いてきた」証しを
堪能してください。
(文庫で)全5巻とは思えないほど濃密なお話です。