『3月のライオン』(07~)は
中学生でプロ棋士になった少年・
桐山零の成長と周囲の人々を描いた
優しい物語です。
16年に一期、17年に二期がTVアニメ化、
実写映画やスピンオフも作られた人気作です。
最初の1pから
「家も無い」
「家族も無い」
「学校にも行って無い」
「友達も居無い」
ーーほら
アナタの居場所なんて
この世の何処にも
無いじゃない?
という(誰かは明かされない)
女性の悪意に満ちた
言葉からはじまります。
夢だったのか、目を覚ました零は
淡々と着替えて電車を乗り継いで
将棋会館へ。
(誰かは明かされないまま)
親しげに話しかけてくる中年の対戦相手を
負かします。
対局中に挟まれる回想シーンから
謎の女性が誰か、零の孤独な境遇が
なんとなく伝わります。
「急に出ていって……
歩も香子も
心配してるぞ……」
(男性が去り、一人になってから)
零「うそだ」
主人公の第一話の第一声がこれです。
読者が事情が気になって仕方ないところに
ほんわかな空気が漂うメールが届きます。
一度は断ろうとしたものの誘いに応じ
川本三姉妹の家を訪問して歓迎される零。
昭和レトロ感漂う懐かしい感じの家で
にぎやかな団欒の中、カレーを食べていると
テレビで息子が父親を
殺害するニュースが流れます。
それに今日の対局を重ねる零。
ーー一手一手 まるで
素手で殴っているような感触がしたーー
ラストに零がプロ棋士であると
モノローグで種明かしがされます。
棋士が対局相手の事情など気にしたら
キリがないはずですが、養父は現在不調で
負けが続けば転がり落ちる世界です。
この時の零くんには恩を仇で返すような
やりきれない一戦だったのでしょうね。
前にも書きましたが、羽海野作品は
「すごく可愛いカップにお菓子や
クリームが盛りつけられた
すごく苦い、しかし味は絶品の
コーヒー」
みたいな印象です。
読みながら苦しい思いと並行して
ほんわか甘いエピソードが……。
零くんの張りつめた「いっぱいいっぱい」感が
少しずつ変化していくのが見所です。
続きます。