昭和の話がしたいんだ

昭和大好き団塊ジュニアの主に70~80年代漫画・アニメ・特撮語り

徳弘正也『狂四郎2030』その2

ディストピアものを描くには、何があってこう
なったのか、エピソードや詳細なディテールによる
説得力が必要となります。
(創作物全般に言えることですが)

この作品は狂四郎&バベンスキーの旅と、
それを待つユリカに起こる出来事を通じて
読者にそれが明らかになる構成になっていました。

ユリカは一般公務員ながら、バーチャSEXの映像や
プログラムに携わる仕事をしているので

その監視中に狂四郎を知り、本来禁止されている
個人のインターネットを密かに作ることも
できたという設定です。

(ただ待つだけでなく、その頭脳と機転で
様々な形で狂四郎をサポートします)

 ユリカ視点では大臣や上級将校の八木、
バーチャセックスプログラム製作者・ハルや
日本に悪夢をもたらした独裁者二条の息子・
ひかるなど、エリート層との出会いを通じて

狂四郎&バベンスキー視点ではシティに入れない
農業従事者や、国の管理外にある人々と出会う
エピソードを通じて

狂った「理想社会」と、それによって歪んだ人の心の
恐ろしさが、これでもかとばかりに描かれます。

前述の二条ひかるは独裁者の息子として粛清に
関わっていますが、それ故に心を病んで
自分の逃避場所として「アルカディア」という
島を作り上げます。

しかし彼がその理想郷で英雄として暮らすために
住民は知らずに死と隣り合わせでいなくては
なりませんでした。

オチがまた絶望的で……。

そんな極限状態だからこそ人の善意が、見返りを
求めない愛があまりにも美しく胸を打つ作品です。

ユリカを巡る三角関係の相手だった八木が
とことん嫌な奴として描かれた後、

狂四郎に倒され、遺言ビデオで
ユリカに照れながら謝罪するところは
ほんとに泣けました。

そして狂四郎とユリカを隔てる物理的な距離が
縮まるたびに、読者はバベンスキーの気持ちで
涙ぐみ、そしてくすっと笑うのです。

人の弱さも強さも愚かさも見事に
描き切った傑作だと思います!!!